川辺のアルバム。 [Life]
例年ならもう梅雨も明けている今頃。
一年でもっとも暑く、すべてを射抜くような日差しが照りつけているはずなのに、今年はいまだにはっきりしない日々。
週末の予定もなかなか立てられない。
なんてのん気な事を言っていられない程の雨に見舞われている方々には、もうお見舞い申し上げるほかない。
そんな水害の足元にも及ばないことだけれども、私も幼い頃、水に関するちょっとだけヤバかった出来事があった。
そもそもの原因は私のどんくささと、すぐ調子に乗る性格によるものだが、たいていの子供はそんなものだ。
チビYASHを咎められるほど理性と自制心溢れる子供だった人は、それほど多くはいないだろう。 …おそらく。
梅雨明け後の、川遊びが楽しい季節もたぶんもうすぐ。
水は楽しいけど、気を付けないと怖いよ。
それはまだ私が、小学校に入る前。
季節は春だったろうか。水は冷たくなかったけれど、水遊びをする季節ではなかったはず。
その日のおぼろげな記憶に陽射しはない。雨の前か、あるいは上がったばかりの曇り空。
そんな印象のある日のこと。
近所に男の子が住んでいた。名前を仮にアキヒロちゃんとしよう。
私と同じくらいの年だったように思っていたけど、もしかしたら少しだけ年上だったかもしれない。
だってその日の彼は、ピカピカの自転車に乗って現れたのだから。
といってもそんな歳だから補助輪付きの、いわゆる幼児用だったはずだが、でもしかし。
三輪車すら買ってもらっていなかった私から見たそれは、今で言うならニューモデルの
ミドルクラス・スーパースポーツ同然だったはずだ。
あちこちにはメッキパーツが輝いて、ハンドルグリップは白。
当時の事だからバーエンドには、ビニールのフリンジが誇らしげに風になびいていたことだろう。
納屋にあった鉄と油の匂いのする祖父の自転車とは、なにもかもが違う乗り物に私はもう釘付けだった。
そんな私を見てどう思ったのか、アキヒロちゃんは気前よくそれを貸してくれた。
足元にあるペダルが何のためにあるのか、なんとなく知ってはいたけれど、
サドルに座ってハンドルを握り、地面を蹴るだけで世界は変わった。
まだ舗装されていなかった道からハンドルに伝わる振動。
流れる景色と顔に当たる、いつもとは違う空気の感触。
時を越えて続く二輪を走らせる悦びを教えてくれたのは、今思えば彼だったのかもしれない。
歓喜の声を上げながら夢中になって地面を蹴る私を見て、共に駆けるアキヒロちゃんも嬉しかった事だろう。
道はやがてT字に川沿いの道へと繋がる。
そのまま幸せな時を過ごすには減速して、どちらかに曲がらなければならない。
いくら子供の私でも、それくらいの事は分かる。いや、分かっているつもりだった。
だが、生まれて初めて乗った二輪は言うことを聞いてくれなかった。
加速より大切なのは減速。
今なら体に染み付いたこの事も当時は知る由もないし、アキヒロちゃんからもそんなことは聞いていない。
むろん、手元にはブレーキレバーがあったはずだがそれがいったい何なのか、もしかしたら彼だって
知らなかったかもしれない。
とんでもない山奥の林道にまでガードレールがある今と違って、当時は道とそうでない所の境界はあいまいだ。
現実に連れ戻された私がいたのは、川沿いの道を斜めに突っ切った土手の斜面だった。
とろんとして薄緑色に濁る川面が、近く大きく、一気に視界に広がる。
懸命に足をふんばっても、慣性と重力を得てさらにスピードを増した自転車が止められるはずもなく。
土手に茂る葦の葉が、すごい勢いで顔の横を過ぎていくのが記憶の断片として残っている。
迫る水面。
***
覚えているのはそこまで。
幸か不幸か、その直後のことは体験としては覚えていない。
恐怖とストレスの大きさに、記憶が削除されのかもしれない。
後から母に聞いたところ、近くにある市場の人が偶然見ていて、流されかけている私を助けてくれたそうだ。
もしその人がいなかったなら、私の生涯はそこで途切れていたのかもしれない。
今でも会えるものならば、あれは僕でしたと会ってお礼を言いたい。
そしてアキヒロちゃんには謝らなければ。
大切な初めての自転車だったろうに、私に貸したばっかりに川へ突っ込まれる事になって彼はどう思ったことか。
事の次第を聞いた彼のご両親から、叱られたりはしなかったろうか。
ちゃんと自転車は引き上げられて、無事に彼の元へ戻ったのか。
しかし、きちんと謝る事のないまま、彼もまた、その後の記憶から姿を消した。
じきに引っ越して行ったそうだ。
アキヒロちゃん、思えば私はひどい奴だったね…。
しかも仮に「アキヒロちゃん」としたこの名前。
実はとっくに実名を忘れてしまってどうしても思い出せないという、
何十年経っても私のひどさは変わっていないのだった。
そこで。
これを読んでいる中で、我こそはアキヒロちゃん(←まだ言う)という方、もし居られましたら
ぜひともコメント欄へ一言頂きたく思います。
手がかりは昭和40年代中頃まで、名古屋市内北部の卸売り青果市場の近くに住んでいて心当たりのある方。
ずいぶん遅くなってしまったけれど、あの時自転車を貸してくれたお礼と共に、
君の初めての愛車をあんな目に遭わせてしまった事を謝ります。
「あの時はありがとう。 そして、ごめん。」
バーエンドのフリンジ...(笑)
大変な記憶ですが、アキヒロちゃん(仮)が見つかるとすばらしいですね。
そういえば、私も補助輪を脱輪させてドブ川に真っ逆さまに突っ込んだことがあったような...。
by kobaban (2009-07-31 00:58)
大人になると、夏は新しい経験をする季節
ではなくて、思い出を静かに手繰り寄せる
季節のような気がする今日、このごろ。いや、最近ね、
よくこういう事柄やら、若くてお馬鹿だったころの出来事、
友達のエピソードなんかを思い出すんですよね。
お盆が近いから、でしょうか。
…懐かしいあんなこと、こんなことが走馬灯のように
脳裏をよぎるようになったら、、、心のアンチエイジング、しないと(苦笑
by MORIHANA (2009-07-31 13:31)
夏はほんと色んな体験をするもんで、私も子供の頃に溺れて
ヤバかった事が2回有りでした。
そして夏は恋の季節、、、、、それで怖くて甘酸っぱい思いもしたな~。
by 魔太郎 (2009-07-31 23:16)
いま考えると
こどもの頃って結構危険なことありましたね
このようなエピソードは僕もいろいろありますが(笑
小さなことから大きなことまで
人生、一期一会の連続なのかな・・・と。。。
by FTドルフィン (2009-08-01 07:39)
同じく当時2,3歳の私の水難から救ってくれたお兄さんがいます。
それがどこの誰なのか今はもうわかりませんが・・・・
そのひとが飛び込んで助けてくれたから今があるんですけどね。
でも、肝心な助けを求めた母も誰なのか名前も聞かずそのままだそうです。
わっていればお礼そ云いたいです。
「アキヒロちゃん」にお礼とお詫びを言える時がくるといいですね。
by バク (2009-08-01 11:08)
★kobabanさん
その後、自分のに乗るようになってからも、何度となく
はまったり転んだりしてるはずなんですが、
こっちの記憶が強烈で、あんまり覚えてないです。
Ninjaにもどうですか、フリンジ(笑)
★MORIHANAさん
私の場合、先の北陸道といい、今でもやってることは十分…(苦笑)
でも本当に毎日を淡々と暮らすようになったら、
バイクやblogにまつわる出来事を懐かしく思い出す時が
きっと来るんでしょうね。
その時のためにも、今のうちにいろんな事をしておかなきゃ。
そういうことが心のアンチエイジングにもなるのかも?
★key-kさん★HIROさん★アホライダーさん
nice!ありがとうございます。
★魔太郎さん
そうして何がヤバイのか嗅ぎ分けられるようになっていく、とね。
お子さん達にもいろんな体験、させてあげてください。
怖くて甘酸っぱいって…??
怖い先輩の彼女と仲良くなっちゃったとか?(笑)
★FTドルフィンさん
>結構危険なこと
その中からいろんな事を学んできたんでしょうけどね。
思えばそれはなにも子供の頃だけじゃないような気も。
今までもこれからもいろんな人に関わって体験して学んで、
生きていくんだと思います。
★バクさん
私も市場の人が見てなかったらどうなっていたことか。
市場のおじさんに直接お礼は言えないかもしれないけど、
今度は大人になった私が、そういう場面では役に立たなきゃ、なんてね。
そんなお礼の仕方もアリなんじゃないでしょうか。
by YASH (2009-08-01 14:53)
人から自転車を借りてはいけませんね。
なぜなら、オイラも友達の自転車で事件を(笑)
借りた自転車はポンコツでブレーキが壊れてました。
減速できないまま交差点を曲がってその先からきたトラックと
正面衝突しました。
でも憎まれっ子世に・・・無傷(爆)
自転車は壊れて・・・トラックの人が修理に出してくれました。
でも、ポンコツだったので友人は両親にねだって結局は新車に
なったのでした。
オイラは良い事したのかな?悪い事したのかな?
by rascal (2009-08-02 21:00)
★rascalさん
トラックの人はとんだ災難だったかもしれないけど、
それでラスさんが大怪我でもしようものなら自転車代だけでは済まないし…。
そう考えれば良い事、だったのかも?
お互いそういう事があっても命拾いしたからこそ、バイクとblogを通じて
知り合い、時々一緒に遊ぶ事になった訳ですが、
それって良い事なのか、そうでもない事なのかな(笑)
★yosiさん
nice!ありがとうございます。
by YASH (2009-08-03 20:49)