今年の春は極端だった。
桜が散ってからしばらくすると、一年でもっとも気持ちのいい季節が始まるはずなのに、
毎日のように冷たい風が吹き荒れる。
ちょうど仕事では外の足場や屋根の上が続いていたので、本当にうんざりしていた。
それでも連休後半になると本来の陽気が戻ってきたようで、
混むのが分かっていてもつい出かけたくなる。
今年の春は極端だった。
桜が散ってからしばらくすると、一年でもっとも気持ちのいい季節が始まるはずなのに、
毎日のように冷たい風が吹き荒れる。
ちょうど仕事では外の足場や屋根の上が続いていたので、本当にうんざりしていた。
それでも連休後半になると本来の陽気が戻ってきたようで、
混むのが分かっていてもつい出かけたくなる。
とはいえ連休真っ只中のこと、ドライブマップやツーリングガイドに出てくるような
メジャーなルートは避けたい。
そこで前から気になっていた南信の、大鹿村辺りへ向かうことにした。
数日前まで名古屋でも朝は一桁の気温だったので、一応防寒の用意をして行ったが
中央道の山あいでも寒いというほどではなく。
松川I.Cを降りる頃には、眠くなるほどの暖かさだった。
R153を横切り、いつものように道草をしながらR152へ。
小渋湖沿いの県道59とR152の出会いから、東に向かって山あいに入ればもう大鹿村になる。
地図では九十九折れの山道が入り組んでいて、一筆書きのルートにはしにくいが、
北にある牧場を繋ぐ道と、夕立神パノラマ公園には行ってみたい。
こういう地名ってなぜか惹かれるのだ。
ただ山の中に入ってしまうと、食事のできるような店があるかどうか。
少し早いけど適当なところは… と思っていると、国道の法面に手書きの小さな看板があるのを見つけた。
お、いい感じ、と、向かってみるとすぐ細い山道になり、かなり上ってもそれらしい店は見当たらない。
それでも小さな分岐には案内が出ていて、導かれるまま上っていくと
やがて開けた山の中腹に、広い駐車場と古民家のような店が見えてきた。
昼にはまだ間があるにも関わらず、車の数は少なくなかった。
もしかして案外名の知れた店なのかも、と思いつつ入ってみると、
ちょうど満席になったところだという。
お外の席でよろしければ、ということで、一人だしまあいいかと、
蕎麦と地域の食べ物であるらしい、じゃがいもで作った餅を頼んだ。
この辺りは山桃や枝垂れ桜がまだ満開。
そんな様子を眺めながらの食事は、なかなか気持ちがよかった。
蕎麦はきちんと作られていたし、餅は茹でたじゃがいもをこねてから揚げてあるようで、
五平餅のような甘い味噌とよく合って素朴においしい。
と、内容はなかなかのものだったが、駐車場からやってくる新しいお客に注目されてしまうのも
なかなか微妙な気分…。
どのみち風の中、陽射しの中を走って来るのだから、お外の席でも全然構わないけれども、
入口の横からもう少し離れてたら、もっと良かったかな。
***
ついでに上の牧場を経由して国道に出るつもりでいたのだが、薄い雲がかかりはじめた。
道草ばかりしているうちに雲が厚くなってもいいことはないだろうと、来た道から国道に戻り、
夕立神の公園を目指すことにする。
この辺りは国道から少し入った辺りまでは集落になっていて、
どの家の庭先にも桃や桜の花が咲いている。
そんな山里の春らしい華やかさを見ながら、オートバイを走らせるのはとても楽しい。
視界の開けない九十九折れをひたすら上って行くと、やがて展望台のような駐車場が見えてきた。
正面には雪を被った南アルプスが間近に広がっていて、ここがどうやら目的地らしい。
案内板を見るとここに車を止めて、徒歩でしばらく上った先が展望台との事。
けれども思った通り雲が厚くなって、午前中の明るい陽射しはすっかり隠れていた。
雪のアルプスもどこか荒涼とした山塊に見える。
元々展望が目的でもなく、ただ夕立神という名の場所へ行ってみたかったのだからとりあえず満足。
それよりナビではじきに途切れるこの道が、それより明らかに続いている方が気になる。
この先はどうなっているんだろう? と、行ける所まで行ってみることにした。
ナビの高度表示は標高1600mをすでに越えていて、辺りはまだ早春という雰囲気。
カラマツの新芽がぼんやりと緑を感じさせる他は、彩度の低い寒々しい風景が広がる。
それとは対照的に、吹く風にはくっきりと輪郭を感じさせるような冷たさがあった。
そんな中を伸びる少し荒れた舗装林道を進んでいくと、やがて閉じたゲートで行き止まりになった。
横には大きな駐車スペースがある。
かなりの台数がいる割りに人の数が少ないのは、おそらく登山のスタート地点になっているのだろう。
通行止めは車両のみで、ここから先は徒歩で南アルプスへ。
ゲートの向こうの林道の先は見えなくて、登り口まででもけっこうありそうだが、
結局行きたい所へ最後まで行けるのは、歩いて行く者だけかもしれない。
山肌に伸びる道を見ながら、そんな事を思ってUターンした。
***
帰り道、GWだけあって幹線では多くのバイクとすれ違った。
そして、普段よりピースサインを出してくるライダーがずっと多かったのが新鮮だった。
中にはまるで80年代の北海道を思い出させるような、大きなアクションの人も。
「あの頃」ならたいていのツーリングライダーには出していた自分も、
返ってくる事が少なくなった時期を経て、今ではあまり積極的には出さなくなった。
もちろん、出されれば返す。
そんなときは、誰が始めたのか知らないが、やっぱりいいものだな、と思う。
マスツーのグループと狭い峠道ですれ違った時の事。
先行の何台かにピースを返すとすぐに、前の車が詰まったので減速、シフトダウン。
その時、向かってくるバイクのタンデムの女性が、懸命にピースしているのが見えた。
今日、仲間から聞いて、試してみたら本当に返ってくるのがうれしくて仕方ない。
そんな様子だった。
今、左手は仕事中だよと思いつつ、とっさにエンジンをガコガコさせながら
右手でサムアップを返すと、「うれしーっ!」と叫びながら過ぎて行った。
そーかいそーかい、おじさんもうれしいよ(笑)
と、ほのぼのしながら、自分が初めてピースを貰い、ぎこちなく返したときの事を思い出してみた。
ちゃんと覚えているのに、ちょっとびっくり。
そんな頃の自分がこうして、今も誰かにピースをしている。
その誰かが、他の誰かにもしてくれたらもっといい。
ピースサイン、してますか?