アジアの街の、大きな食堂にいる。
ほかにいくらでも空いているのに、なぜか奥の方の妙にせまい席に体を押し込め、浅黒い肌に
白い簡素なブラウスのウェイトレスからメニューを受け取る。
自前で撮ったような写真と、分かるような分からないような文字を見ながら考える。
汁麺を食べるにはちょっと暑いし、ご飯物の気分じゃない。
あ、これにしよう。
中華風の焼きそばに、希望的観測で蒸しパンらしきものを付けて頼んだ。
離れていくウェイトレスの背中を目で追ってから、向かいの窓の外を見る。
歩道には、夕方早い時間の斜めの陽射し。
なのにコントラストがやけに高くて、それだけ見ていると夏の午後みたいだ。
眠いな…。
それにしてもなんでこんな狭い席に座ってるんだろ?
なんて思っていたら目が覚めた。
休みにした今日の夕方のことだ。
昨日で終わらせた仕事の疲れと鼻炎から来る倦怠感で、結局一日なにもせずに過ごしてしまったが、おかげで体は少し楽になった。
ちょうど外食にするというので食べそびれた焼きそばにしようと部屋を出たが、向かった店は休み。
代わりに入ったのは、台湾料理の小さな店。
二人いる店員の女性は台湾の人みたいで、厨房へ伝える言葉はまるっきりわからない。
でも、台湾訛りの日本語はイントネーションがかわいい。そして陽気だ。
夢の中の食堂とはだいぶイメージが違ったけど、家庭的な味はよかった。
座敷席にはインパクトたっぷりの座布団がずらり。
こういうのもアジアなテイストだな。
よく見るとハチのポーズがとってもキュート。サッカーボールが謎だけど(笑)
***
その帰り、本屋に寄った。
この頃、まともに本を読んでいないな と思うようになって久しい。
本屋に行くのはそれこそ子供の頃から好きなので、今でもたまに覗いてはバイクの雑誌なんかはチェックするけれど、
それすらなかなか買うところまではいかない。
バイクに関してはなんというか、もうスレてしまったのだろうな。
ニューモデルもあまり気にならなくなったし、カタログ的な情報はネットを漁れば事足りる。
まぁ、そういうのは本を読むとは言わないか。
やっぱりなにか、物語が読みたい。
昔の話をしても仕方ないけど、以前はけっこういろんな本を読んだ。
前にも書いた片岡義男はともかく、内外新作古典問わずSFも好きだった。
宮沢賢治、横溝正史、翻訳物のミステリー。探偵物、紀行物などジャンルや作者はもう脈絡なく。
オートバイが出てくる作品を探した事もあった。でも、このジャンルは少ないうえになかなか自分に合う作品がなかったのを覚えている。
いかにもヒーローな主人公の活躍が楽しめるほど素直じゃないし、あんまりタフでハードな世界だと自分と違い過ぎて素直に入り込めないし(笑)
実は今でも時々探すんだけど、やっぱりすっと入り込めるオートバイの世界を描いたものってなかなかない。
斉藤純や花村萬月を立ち読みしていると、ああ、こういうことって走っている時に自分も感じるなぁという場面はあるにはある。
でも、前者は自分にはオトナでスマートすぎるし、後者ほどハードボイルドじゃなくていい。
そういうのにぴったりハマる人もいるだろうけど、少なくとも私の内面はもっとコゾーで落ち着きがなくて、
タフでもクールでもない。
私を知る人の中で、いや、YASHさんて長く乗っているだけあって… などと言う人がいるとしたら、
それはまんまとダマされているってことです(笑)
しょっちゅう忘れ物をするし道をまちがえて不安になるときもある。
バカな事をやって失敗したり疲れこんでみたり、なのに明るく平気に振舞ってみたり。
そういうごく普通(でもないか?)のライダーならではの共感や期待や、ちょっぴりのセンチメンタルが味わえるような話。
そしてやっぱりバイクのある暮らしっていいな、と思わせてくれるような物語。
そういうのが読みたい。
と思う一方、そんな事は幻想。
ごく普通のライダーの事なんて話にもならないから誰も書かないのさ、とも考えられるけどそこは文章力でひとつ、
騙してほしい。
実は原田宗典が以前、それに近い短編を書いていたんだけれど、そこへすんなり入り込める歳ではもうなくなってしまったし、読み返して鼻の奥をツンとさせてばかりもいられない。
なにかお勧め、ないですか?