現地はここ数年、今頃になるとよく行くようになった南信エリアの大鹿村。
鹿塩温泉の辺りから大池高原キャンプ場へ向かう途中に分岐があるはずで、
とりあえずはそこを目指してみる。
前日は穏やかで、汗ばむような初夏の陽気だったのが一転して、
この日は早朝から冷たい風が吹いていた。
ジャケットのベンチレーションを全部閉じ、ネックゲイターを巻いていても路上ではまだ寒いほど。
中央道から見る山を覆う新緑は、遠目にも強い風に枝を揺らしていた。
R152から離れて鹿塩温泉へ向かうと、すぐに「塩の里」という
道の駅のような施設が目に付いたので、そこで一息。
やっと気温が上がってきて、陽射しが嬉しい。
日向にTDMを停め、冷えた体を温めてから出発。
例の分岐は、地図にもナビにも出ていないので、現地を見ないことには何とも言えない。
一応キャンプ場を目的地にセットして、時おり枝分かれする山道を進む。
今年は花桃の盛りが早かったのか、この辺りでもほとんど見かけることはなかったけれど、
それでも時にはこんな桃や山桜の白い花が、目を楽しませてくれた。
そんな中の九十九折れをぐんぐんと上って行き、辺りはやがて落葉松林の中へ。
電波が繫がっているうちに衛星写真を出しておいたスマートフォンと、
ナビの表示を見比べながら、時々停まって分岐を探す。
やがて深く回りこんだ左コーナーの奥に、錆びたチェーンの張られた枝道があるのを見つけた。
チェーンには「関係者以外立ち入り禁止」の古びた看板が。
写真はあえて撮らなかったけれど、間違いない。
入口付近の轍は下草に覆われかけていて、しばらく車両は入っていない様子。
バイクなら入っていけるだろうが閉鎖されていては仕方ない。
それでもひとつ、パズルは解けたのだ。
そんなふうに思いながら、とりあえずキャンプ場まで行ってみることにする。
開けた路肩から奥へ入れるようになっていたので、ここがそうかと入ってみたらどうも雰囲気が違う。
駐車場の奥は展望が開けていて、中央アルプスを望む位置に店舗のような建物が。
食事でもできるならちょっと早いけど昼に、と思ったら入口は板で塞がれていた。
横には手書きで、移転の知らせ。
ふむ。
TDMの前にあるのは桜の木で、満開の頃ならアルプスをバックにさぞや見事な眺めだろう。
そんなタイミングの風景にはなかなか出会えないのだが、建物の裏手では
ひっそりと遅咲きの山桜が盛りを迎えていた。
キャンプ場はそこから少し先にあって、どんなところか覗いていこうと思ったら、
ちょうど利用客の出発時と重なったらしく、小さな駐車場は車がひしめいていて落ち着かない様子。
まあそれならそれでと、トイレだけ借りて先へ。
そりゃそうだ、メジャーどころではないとはいえ、ゴールデンウィークだもんね。
その先にはキャンプ場の名の元になっている、大池という名の池があった。
山の中には珍しく、自然の池のようだ。
水が茶色っぽいのは汚れているというより、流れ込んでいる沢の泉質によるものらしい。
水辺に下りてみると、蛙かなにかの短くつぶやくような鳴声が、どこからか聞こえてくる。
この池には伝説があって、昔、近隣の村で来客や祭事のある際には、
前日池に来て何人分要りますと言っておくと、翌朝には揃いの漆器が人数分、池のほとりに置かれていたそうだ。
ある時、その一つを壊してしまったのにそのままにしておいたら、その後、何度頼んでも器は現れなくなったという。
そんな事が書かれた立て札があった。
うん、それはうやむやにしようとしたヤツが悪い。
そんな事を隠してたら、誰だって怒るよな。
なんて思いつつ、遠野物語だかで似たような話があったのも思い出していた。
地域は違えども、昔は不思議な事があったんだな。
そういうお話のけっこう好きな私は、途中の集落を思い出しながら水面を眺めたのだった。
このまま進むと一昨年だったか、夕立神パノラマ公園に行ったときに寄ろうと思っていたルートへと続く。
少し迷ったが、その道はそこへ行くためだけの日に残しておくことにしよう。
そんなふうに考えて、この日は戻ったのだった。
と、肝心な目的地にはたどり着けないこの日だったのだが、
こういうツーリングの場合、大半がこんな結果に終わる。
が、メゲない。
自分の場合、走り出す目的は点じゃない。
そこへ向かって、うろうろして、納得して帰る線を辿るのが目的なのだ。
そういえばノーマルハンドルに戻したTDMは、タイトな日本の山道であっても
好印象は続く。
これを緩やかな立ち上がりのハンドルバーで再現がなるか?
要検討。
***
ところで相当久しぶりに、バイク用のジャケットを買った。
この日はそのテストでもあったので、次回はそんなお話を。