名前はまだない。

先日、実家でTDMを洗車していた時のこと。
見慣れない野良猫がこちらを伺っているのに気付く。

見ていると近寄ってきて周りをうろうろし始めたが、
どうやら目的は私ではなく、無論TDMでもない、その向こう。

洗車やメンテナンスは、シャッターを開けた車庫前のスペースでするのだけれど、
どうやら車庫の中に入る機会をうかがっているらしい。
そこには仕事の材料や金物の他に、化粧材を運ぶ時にクッション代わりに使う
薄い布団やキルティング生地なんかもあって、ノラのねぐらにはもってこいなのだ。
季節柄、そろそろこんな寝床が欲しかろう。

でも知らずにノラを閉じ込めて、いろいろ面倒が起きたのは一度や二度じゃない。
断じて侵入を許すわけにはいきません。

で、「こらっ！」とかやるとたいていのノラはダッシュで逃げて、
少し離れた物陰から不満げな視線をよこした後は、いつの間にか姿が見えなくなるのだが
コイツは違った。
ニャァ～とか言いながらもたもたと逃げるが、すぐ戻ってくる。
あんまりしつこいので捕まらないとは思いつつも手を出すと、横っ飛びで避けるかと思ったら
簡単に捕まってしまった。

やっぱりニャァ～とか言いながらだらーんとしているので、
そのまま実家の裏手の路地まで抱えて行って、どこか他を探しなと放してやると、
今度はダッシュで付いてくる…。

そんな事を5回くらい繰り返したらもう面倒になってきて、かまわない事にした。
かまわないけど車庫には入れないぞ。

それにしてもキジでもトラでも三毛でも黒でもない、まったく残念な色柄をもらったもんだなと
その時は思って見ていたが、後で調べてみるとこういうのはサビというんだそう。
鉄の錆色と言われれば、なるほどそんな感じ。

ところでこのサビ、初対面の割にはやたらと人懐こいというか、警戒しないというか、
図々しいくらいこちらに寄ってくる。
こちらもイヌネコ問わず嫌いじゃないので、寄って来られれば頭くらい掻いてやるが、
あんまりゴロゴロ言ってまとわりつかれても困る。
お前と遊んでると日が暮れるまでに終わらないから、あっち行ってろと少し邪険にすると、
今度は庭先でキンモクセイの枝打ちをしていた、父の方へ移動。

そっちに付きまとう事にしたらしいが、それはかなり危険のはず。
父は元々小動物を愛でるという気質の少ない人で、しかも野良猫の糞には日頃から悩まされている。
あまり近づくと…　と見ていたが、足元をちょろちょろされても気にしてないような…？

不思議に思って聞いてみたら、
「おお、こいつな。あんまり図々しいんでいっぺん非っ道い目に合わせてやったが、
　それでも俺に付いてくるから、もう放っておくことにしたわ。
　でも食べ物はやらんぞ。」
と笑っていた。

この人が自分で言うくらいだから、本当に酷い目に遭ったんだろうが、
それでもまだ嬉しそうに付いて回るのはどういう訳やら。
見ればまだ若い♀で、父がもうちょっと器量が良かったら俺が飼ってやるのにと言うように、
この性格で小奇麗な毛色で、しゅるんとしたしっぽでも持っていたなら
とっくに暖かい窓辺を手に入れていたかもしれない。

でもこうやって写真を見ていると、結構カッコいいヤツだなと思えてくるから不思議。
アシンメトリーな毛色もなかなかクールだし、このガチャ目気味の表情ときたら。
あのお愛想も、生き抜くために身に付けた術だったか!?(笑)。

例によって命名しようかと思ったけど、どうもしっくりくるのが浮かばないので
とりあえず保留。

ヘンな名前を付けるより、「あのノラ」のままの方が似合ってるかも。