最終日は雲間から陽射しがこぼれる明るい朝から。
子供の頃の夏、田舎の親戚の家で迎えた朝はこんな空気だった気がする。
最終日は雲間から陽射しがこぼれる明るい朝から。
子供の頃の夏、田舎の親戚の家で迎えた朝はこんな空気だった気がする。
そんな頃には思いも寄らなかった事だが、今の私にはオートバイがある。
この日は少し足を伸ばしてみる予定になっていた。
東向きに窓のある明るいキッチンからは、こんな朝食が。
お皿に美しく盛られたのは、まさしく「健康」の二文字のよう。
さて行き先はと言えば、まず久しぶりに高ボッチ高原へ行ってみる事にした。
東に見える王ヶ頭は雲の中で、おそらく標高のある高ボッチも同様なのは想像できる。
でもそれを承知で行くんだし、降りればまた夏空が待っているのを思えば
一時の霧や雨は気にすることもないだろう。
見送りの間にも、庭の草取りに励むまるこさんの図。
行ってきまーす。
車の多い幹線を避け、地元っ子ならでは走りやすいルートを選ぶharryさんに続くうちに
ほどなく高ボッチの入口へ。
九十九折れを登り始めると予想通り辺りが白くなり、やがて霧雨の中へ。
harryさんより
登り切る頃には涼しいをとっくに通り越して、メッシュジャケットでは明らかに寒い。
その上にレインウェアを着込んで、行き止まりの鉢伏山荘まで進む。
本物の羊がいる牧場も、今日は霧の彼方。
舗装路は山荘の手前で行き止まり。
この先は鉢伏山までの登山道になる。
そこへ向かうハイカーはガスの中でもやっぱりいて、
自転車でここまで昇ってきた若者が山荘のストーブで暖を取っていた。
この寒さなら、体も冷えたことだろう。
彼らに比べたらずいぶんと楽をして登って来たのに、場所を取っちゃ悪いかな、
という訳でもないけれど、我々には外のテーブルの方が「らしい」気がする。
温かいコーヒーを淹れてもらって、そこで一息。
霧にも濃淡があって、白い闇が流れてきたか思えば一瞬日の光が差し込んで、
辺りがさっと明るくなったりする。
そんな時はそれまで立ち込めていた冷気から、急に太陽の温もりを感じるのが新鮮だった。
***
下界に降りると一気に季節を巻き戻したような、夏の空気が戻ってくる。
harryさんお気に入りの、雑貨屋と同居するパン屋は残念ながら本日休業。
再び交通量の少ない道を選んで松本の街を抜け、アルプス公園から梓川へ急降下するような
道を駆け下りて向かった先は安曇野。
そろそろ昼時で、蕎麦でもと思うものの、店先に長い列ができていたり駐車場から車が溢れてたりで、
とてもすんなり入れそうにない。
盆休み真っ只中では仕方ないが、そうそう思ったようにはいかないようだ。
途中、ここのもうまいんだよと立ち寄ったパン屋。
それぞれお土産代わりにいくつか買ってみた。
結局この後も、気分よく食事にありつけそうな店は見つかりそうになかった。
それなら丁度食べ物は手にしている事だし、別に蕎麦にこだわる必要もないかと、
林檎畑の中の農道でバイクを停める。
近くには小さな水路の土手があって、柔らかな下草のクッションが。
なかなか座り心地が良さそうだ。
焼き立ての温かさが残るパンは、まじめに作られた匂いがした。
走り出してから2、3時間でも、旅の途中、なんて思えばこういうのも悪くない。
たぶん、独りで走っていてこういう展開なら、やっぱりこんなふうに人気のない道端を探して
持っている食べ物を広げただろうな。
一瞬だけばらばらと降り出した雨に、慌てて近くの農機具小屋まで雨宿りしに行ったりしたけれども、
それはそれで楽しいひと時だった。
harryさんの家に戻ってまもなく、また雨が降り出した。
ちょっどいいタイミングだったらしい。
エンジンの熱が引きかけたDトラを母艦に積んでベルトを掛け、艦載機の出番はこれで終了。
まるこさんのむいてくれた桃を頬張りながら、置いてあったBMWの雑誌を眺めて一休みする。
和室で寝転んでいたharryさんはうとうとし始めたよう。
平和だなぁ。
と思いつつ、帰りの事を考えていた。
当日の夕方から始まる地区のお祭りにも誘ってもらっていたけれど、
空模様も安定しないし、たまたまかち合った諏訪湖の花火の渋滞はかなりのものらしい。
少し早めに動き出した方がいいかもしれない。
ぱらつく雨の中、見送りに出てくれた二人に、いずれまた、と握手をして走り出した。
***
そんな夏休みが終わってもう10日。
また時計を巻き戻したような暑さの日々に戻って、毎日汗だくの残暑は続く。
けれどもいつのまにか暗くなるのが早くなっていて、確実に秋は近づいている。
朝、仕事に出かけようと母艦のスライドドアを開けた時、荷室に夜の冷気の残りを感じるようになった。
そんなときにはふと、山の空気を思い出したりする。
夏休みがあっという間に過ぎて行くのは、子供の頃も今も変わらない。
そして後に残るなにかを残していくのも、やっぱり変わらなかった。