上はSFの、「歌う船」というシリーズの中の特に好きだった3冊。
全巻揃えたんだけど読まなくなって久しい頃、これらを残して他は売ってしまった。
他がよくなかった、というよりストーリーと翻訳の相性なのだと思う。
ひとりの翻訳家がシリーズを通して手掛けているわけではないので、
訳によって会話のリズムや思い浮かぶイメージが異なるのは仕方のない事なんだけど、
個人的には嶋田洋一氏の訳がもっともキャラクターらしさが引き立っているように感じて、
物語にすんなり入り込める。
文字を追うごとに、まるで映像が目に浮かぶようなのだ。
あまり敵とか悪役の出てこないこのシリーズの中、「戦う都市」に登場するそれの最凶で最悪ぶりの描写などは
まさにビジュアル的。
自分もこんな描写ができたなら写真なんか使わずに、読ませるblogが書けるのに、なんて思ってしまう。
積み重ねてきたものの圧倒的な差、だけではないんだろうけれども。
シリーズタイトルにもなった「歌う船」を、この人の訳でぜひとも読んでみたかったが、
そんなことをいってもはじまらない。
別の訳者で新訳版が出ることがあったなら、また読んでみたい。
しばらくはこの二つのお話を、読み返してみることにしよっと。
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訳といえばタイトルだけでも名訳だと思ったのは、ジェイムズ・ティプトリー・jrの「たったひとつの冴えたやりかた」。
原題は「The Only Neat Thing To Do」。
英語なんてからきしダメな私も、なんとなく意味はわかる。
でも、数ある日本語の単語の中からこれを拾い上げるセンスは、私には百万回考えても得られないだろう。
もちろんタイトルだけじゃなく、中の3つの物語もけだし名作。
これも久しぶりに読みたくなって、持っていた妻に聞いてみたら「もうないよ」とつれない返事だった。
ならばとAmasonへ行ってみたらさすがに名作だけあって、萩尾望都だったかの見覚えのある表紙の他に
改訳版が出ていた。
でも訳の違いで、これはオレの知ってる「冴えたやり方」じゃない! となるのも切ないので、
以前読んだ方の中古(194円也)をクリックしかけて、ちょっと待て、近所のゲオで見てきてからにしようと手を止める。
で、出かけてきたものの、残念ながら見つからず。
その代わりに、というか全然代わりにはなってないけど、これまた思い出深い本の文庫版に遭遇。
前にもちょっと書いた事のある、原田宗典のバイクにまつわる短編集を手に入れた。
どっちも目次を見ただけで20代前半にタイムスリップ(笑)
BGMはユーミンの「あの日にかえりたい」、とはあえて言わず、
バイクに乗った後ろ姿を感じさせる「カンナ8号線」が気分かな。
大型に乗るなんて夢のような時代だったから、本当あの日に帰りたいとは思わないけど、
無駄なくらいバイクと過ごせる時間だけはあった。
そんな青春の後姿のようなストーリーのほとんどが、タイトルか冒頭を読むだけでどんな物語だったか思い出せる。
たぶん、バイク乗りとしての心の基本構造ができあがった頃に読んだからだろうな。
バイク雑誌に載っていた時に読んで、後から単行本で買ってまた読み直して、それからも
ずいぶん長い間手元にあったはずだが、そういうのに限って本というのはいつのまにか姿を消す。
今度はもう失くさないようにしよう。
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という、あんまり「冴えてない」展開になった訳だけれど、「冴えた」方はやっぱりAmazonで買う事に。
しばらくは宇宙で過ごしたり20代へ戻ったり。
ときには内なる旅へ出るのもよし、の冬の夜なのだ。